マダラさんの過去のタイムライン

2020年09月

マダラ
マダラ日記
2020/09/30 15:20[web全体で公開]
😶 知らず、悟らず、されど見澄ます。 ちょっとあとのこと
(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼) 教室の中に夏の気配を含んだ青い風が吹き込み、カーテンを揺らした。普段は頭の上を通り過ぎていくその風は、僕の頬で止まって、いい加減伸びすぎた前髪を巻き上げる。
 と、僕のノートに影が落ちる。見上げると、数学教師の男がこちらを見下ろしていた。僕の居眠りを注意するという、岩を運ぶシシュポスも悲鳴をあげそうな終わりのない苦行に未だめげていない男だ。
「おお、高視、起きてるのか」
「寝てたことなんてありませんけど」
 こともなげにそう返す僕に、左隣の席で貴子さんが噴き出す。そちらに鋭い視線を向けてから、彼は物差しで僕の頭をこつんと小突いた。
「調子に乗るなよ。まあ、受験が迫って意識が変わったようで結構」
 そう言い残して教師が去った瞬間、僕はノートの下に隠していた原稿用紙を取り出す。そのよどみない動きに、貴子さんがまたくすくすと笑った。

     *****

 風にさらわれた僕の処女作は、一時期SNSで多少話題になったものの、すぐに忘れ去られてしまった。当時どんなに自分でうまく書けたと思っても、改めて見てみれば文章や話の組み立て方は素人丸出しで、風が運んできた原稿用紙というポエティックなリボンで飾られていなければ話題にもならなかっただろう。
 インターネットにはびこる匿名を装った羊たちによると、僕の小説は、『面白いが何かと話が飛躍しがち』であり、ヒロインを襲う悲劇は『とってつけたように陳腐』で、そして何をおいても『主人公が女々しくてやっていられない』らしい。
まあ、気持ちはわかる。読者の立場なら僕も同じことを言っていた。けれど、事実は小説より奇なり、ということなのだろうか。よりにもよってこの僕がそんなことを思うなんて、皮肉な話だ。

 クラスの端で机に突っ伏していても、教室の誰よりも物が分かっていると思っていた、悟れると思っていた僕はもう死んでしまった。
 いや、今回の事件を持ち出さなくったって、そういう少年はとうの昔に居なくなっていたか。冬音さんと貴子さんが、僕を狭い世界から引っ張り出してくれた。
 そして、この町に潜むもの、あの路地の向こう側にいるものついて、その片鱗も僕は知ってしまった。いや、本当なら今すぐにでもどこか県外に進学したいところなのだが、それも約束が許してはくれない。

 夏が近づき、もうすっかり日も長くなって、夕方の図書館にはまだ眩しい日差しが差し込んでいた。なじみの司書さんに挨拶をして、僕はいつも行く小説の棚とは違う、普段はいかない場所に向かった。
 そこに並ぶのは、法律書であるとか、或いは子どもの虐待に関する本だ。
 小説は書きあげたけれど、あれは僕と貴子さんの物語だ。あの子の話じゃない。あの子の話は、僕にはまだ全然わからない。
 何があったのか、なんで何も言えなかったのか、僕たちに何ができたのか。今でもまだわからない。
 だから、何もかも悟ったようなふりはやめた。あの鏡はもうほとんど用をなさない、ひび割れたただのお守りになっているけれど、それでいい。ちゃんと全部を自分の目で、見て、観て、視ないといけない。

 目当ての本を手早く見つけ出して積み上げてから、僕は今日の授業中に書いていた原稿用紙を取り出す。こればっかりは貴子さんにも秘密だ。彼女が白雨くんの夕ご飯を作り終えて、すっかり定例となりつつある読書会のために図書館に来る前に、全部済ませてしまわないといけない。


 「さよなら泣き虫、ただいま歌姫」だっけ?



 ねえ、作者として言わせてもらうけど、あのタイトルさ。センスないよ、マジで。



 だってあれは、断じて君の話じゃないから。僕たちの話だから。勝手に取らないでよ。
 君の“ただいま”は、君以外の口からは聞きたくないよ。

 だから、それをいつか聞かせてもらうのを楽しみに、僕は新しい物語を紡ぐ。“おかえり”の話を。

 大丈夫、いつ君が戻ってきてもいいように、僕たちがあの時とイマを忘れないように、栞は挟んでおくからさ。

 そう呟いて、僕は一枚の原稿用紙を折りたたみ、図書館の窓を開く。この時間、ここに他に人はおらず、窓からは僕らの町が良く見える。

ひゅう、夏の始まりを告げる風にが吹き抜けるのに合わせて、僕は手の中の紙飛行機を放る。

 その小さい、けれど確かな軌道が入道雲に突き刺さるのを眺める僕の目から、いったい誰のところからサヨナラしてきたのだろうか、泣き虫が顔をのぞかせた。




 はい! というわけで、先日行われたセッション、「知らず、悟らず、されど見澄ます」(KP:時雨さま)に参加してきたマダラのPC:高視悟の後日譚でした。

 いやあ青春でした。ちょうど高校生探索者やりたいなと思ってたところに特上の物語をぶつけられて感無量といった感じです。前半の2時間に及ぶ日常パートも、KPとPL二人で「こんなこと高校のときあったよね」「あったあった」なんて言いながら進められてとても楽しかったです。一つ一つが本当に眩しくて、でも下らないんだけど、本人たちはそれに無自覚で、本気で悩んだり言い合ったりしてるところも青春って感じでしたね。

 自PCの文学少年、高視はどうにも格好のつかない奴だったけれど、必要なところで必要なことを言って、りちゃさん宅の貴子さんに繋いであげることはできたんじゃないかな。自分のうだつの上がらない少年時代を彼に重ねてたので、最後の「制作:小説」は「失敗しろ失敗しろ失敗しろ」って言いながら振ったんですけど、見事にクリティカル出されましたね。僕のPCたちは僕よりずっと強いなって思います。

 あとはテーマソングの「おやすみ歌声、さよなら歌姫」はマダラも高校生の時に死ぬほど聞いたりバンドでコピーしてた青春のアンセムだったので思い入れもすごかったですね。今回の後日譚のテーマもおんなじクリープハイプの「栞」かな。「風に吹かれて」でもいいなあ。

 ではこのあたりで。改めまして、KPの時雨さん、同卓してくださったりちゃさん、ありがとうございました! ぜひまた高天原で遊べたらと思います!
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りちゃ
りちゃマダラ
2020/09/21 02:25[web全体で公開]
> 日記:キャンディ・レイン ちょっとあとのこと
青桐さん!青桐さんだったんだ!うわー、おおお、伝わった。そして活ける、わかる。あと伝言聞きました(笑) 卓詰まってる理由がわかる伝言でしたね!お疲れ様でした!明日も頑張りましょう!
マダラ
マダラ日記
2020/09/20 15:05[web全体で公開]
😶 キャンディ・レイン ちょっとあとのこと
(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼) 春の雨が、昔から好きだった。
 
 あたたかで、静かで、全てを洗い流してくれるような、そんな雨。それを降らせる雲も、毛ばだった灰色の絨毯みたいに憂鬱なものじゃない。体の奥の何かがうずうずと落ち着かなさげに身をくねらせるような、そんな春の興奮を帯びて、雨粒も昔懐かしい水色のドロップスのように、きらりきらりと輝いている。
 だから、きっと、こんな日は、傘もいらないのだ。

 そんなわけで、彼の四十九日を終えて帰路についた私の喪服はすっかり濡れて、袖からはあたたかな水が滴っていた。河川敷を歩く私の横を、突然の雨に降られた人々が慌ただしく通り過ぎていく。真っ黒な礼服に似合わずずぶ濡れで、そのくせ少しも急ぐ様子のない私を、彼らは皆怪訝そうに見てくる。そんな視線気にならないと言いたかったが、やっぱりちょっとだけ気まずくて、私は縮こまるように道の端に寄ってしまった。

 学生時代の私なら、彼が隣にいて無敵だった私なら、もっと真ん中の道を行けただろうか。

 そんなこと、考えたってどうしようもないか。そう息をついて、わたしは地面を打つ雨の音に耳を傾ける。さあっとしたかすかな音にも、よく聞けば細かな粒がある。アスファルトをたたく連弾が、どれだけ不規則に聞こえても、そこには一定のリズムがある。三拍子、メヌエット・ワルツ・マズルカ。雨、飴、アメ。

 私の意識は、素朴で調子はずれで、でも美しいリズムの中に落ちていく。



     *****



「何をぶつぶつ言ってるの?」

 ふっと気がつくと、そこは大学の学生食堂だった。その景色が当然連想させる学生の大群と、彼らの起こす大音響の予感に私は思わず耳をふさぐが、その場所は案外とそう騒がしくもない。辺りを見回すと人はまばらで、どうやら昼休みを過ぎた時間らしかった。
 それから私は自分の着ている服に目を落とす。いつもの趣味と同じく飾り気のない服……そう言いたかったが駄目だった。田舎娘が無理をして飾り立てようとして失敗したような、目を覆いたくなるような服だ。
酷いセンスの服、目の前にはノートパソコン、人気のない時間の学生食堂を選んで逃げるように作業をしているとなると、後は簡単だった。これは私だ。大学二年の、まだ何にも馴染めず、記者を目指すと言いながらあてもなく、ふらふらとしていたころの私。

「ねえ、無視はひどくないかな」
 その言葉に、私は先ほどから私を呼んでいた声の主に目を向ける。その先では、端正な顔立ちで、どこか朴訥とした表情の青年が、怪訝そうに私を見ていた。その顔にすぐにでも泣き出して抱き着いてもいいところなのに、私の体はこわばったまま、顔が勝手にその眉を顰め、口はかってにそっけない言葉を紡いだ。
「何か用?」
「いや、さっきから一人でぶつぶつ呟いてたから、何なのかと思ってさ」
「別に」

 ──そう、普段ならそこで会話をきってしまうところなのに、その日の私はさらに続けて言ったんだ。彼のかわいらしい顔立ちにつられてだったか、まるで悪意を感じさせない話し方のせいか、もう忘れてしまった。

「……トレーニング、してた」
「なんの?」
「語彙を増やすための、ちょっとした連想ゲーム。何かを見たら、それから思い浮かんだ言葉を三つ並べるの」
「例えば?」
「えーッと」
 そう聞きながら、彼はごく自然に私の向かいの席の椅子を引いて腰掛ける。随分なれなれしいが、その時の私は自然と彼を受け入れることができた。
 そのとき、私の耳に水音が届く。外に目を向けると、雨粒が窓を打ちながら。ぱらりぱらりと音を立てていた。私は黙って、それを指さす。
「雨、飴、キャンディ、ドロップ」
「それって、ほとんどただの言い換えじゃないのかな、二つ目の時点で別に雨関係ないし」
「……」
 唇を尖らせ抗議するような視線を返す私に、青年はくすりと笑った。
「まあ、それでもいいのかな。そういえば、僕の名前も雨って言うんだ。偶然だよね」

 それからの記憶はおぼろげだ。名前と学年を告げた私に、あれ、先輩でしたか、と屈託なく笑った彼の笑顔だけ、よく覚えている。

     *****

 気が付けば、私は河川敷のベンチに腰かけていた。どうも泣いていたらしいが、雨に濡れたおかげで、それも周りにはきっとわからないだろう。

 あの出会いから、私と雨はよく行動を共にするようになった。最初の内は彼が声をかけてくれていたけれど、後はほとんど、私が彼を引きずり回す格好だった。彼は喜びを見出す天才で、私の脈絡のない連想ゲームに、いつも笑顔できれいなオチをつけてくれていたっけ。
 彼がついてきてくれると思うと、いつも不思議と勇気が湧いてきて、私は無敵になれた。
あの時彼は私のことを「諦めないで真実に突き進むひと」なんて言ったっけ。それも、諦めが悪くて負けず嫌いなダサい私のことを、彼がそう呼んだのだ。彼がそう呼んでくれたから、私はそんなふうになれたのだ。

 卒業してから入った新聞社をすぐ辞めてしまったのも、口では色々と格好のいいことを言っていたけど、結局、一人ではうまく“無敵”になれなかったからだ。素晴らしい日々が過ぎた、エンドロールのその先で、一人で生きていくのがこわかったからだ。ずっと、彼が言ってくれるような、まっすぐで強い私の夢を見ていたかったからだ。

「……置いてくなんて、ずるいよ。」

 いつも大人しくついてくるくせに、肝心なとこでわがままなんだから。私はそう呟いて、ベンチから立つ。その拍子に、視界の端でふっと青い花が揺れ、私は思わず足を止めた。



      *****



 アパートは、いつもより物寂しく感じられた。ずぶ濡れの服を脱ぎ捨て、清潔で乾いたシャツを着る。頭をタオルで拭きながら、雨の化粧を拭き取って鏡に向かうと、そこには泣きはらした瞼を抱えて、ずいぶんと頼りなさげに震える、大人になってしまった女が映っていた。
 指でフレームを作って、鏡に向けてみる。それを通して映る顔も大して変わりはなかったが、それでも少しはマシに見えた気がして、私は無理に唇を引き上げて笑った。
 彼との別れ際、あの扉の前で、こうして彼のことを写したっけ。指のフレームと、瞼のレンズ、彼の屈託のない笑みは、今でも脳裏に焼き付いている。



 ねえ、雨、私、寂しいよ。



 でも、もう、前に進まなくちゃ。だって、あなたの言葉は、とってもきれいで、あなたの語る私は、とってもかっこよくて──夢で終わらせるには、あんまりにも勿体ないから。



 居間に戻ると、ラジカセを操作し、最近聞くようになったアイドルの曲をかける。きらびやかな音楽に身を浸しながら、私は目の前に吊り下げられたコルクボードを見やった。とある事件で知り合った仲間たちとの写真に、私の口元に笑みが浮かぶ。



──静葉さんなら、いつか、世界も救っちゃうんじゃないかって気がするよ。



 うん、雨。私、世界だって救ったよ。思っていたよりずいぶんと不格好な形だったけど、そういうことを、ちょっとだけできたから。

 だから、まだ、夢が覚めても、まだ進んでみるね。

 そのコルクボードの隣に、私は水で満たしたドロップの缶を置く、活けるのは先ほどベンチの脇でつんだ花だ。綺麗な雨の色。あのキャンディとおなじ透き通った青の花。

 その花からいつものように連想を広げようとしても、口から思うように言葉は出てきてはくれなくて、その代わりのようにあふれてくる涙を、私は思い切り拭う。

 静葉さん、そんなに泣き虫だったっけ。揺れる花の──ワスレナグサの青いはなびらにそんな言葉をかけられた気がして、私は、ちいさく、うるさい、と、言った。



〈おわり〉



 というわけで、先日のCoC「キャンディ・レイン」(KP:小笠原ナカジ様)に参加したマダラのPC:青桐静葉の後日譚でした。生きて、前に進むけど、あんなわがまま言ったんだから、私にももう少し泣かせてよ。
僕の後にナカジさん卓で同セッションにいった方の後日譚とやってること被っててわああああああとなってます。缶に花、活けるよな。わかる。静葉が選んだのはブルーのワスレナグサでした。
いやあ、とっても切なくて、綺麗なシナリオだった。静葉とNPCの雨くんとは大学の先輩後輩で、静葉が雨くんを連れまわしてた感じのイメージだったんですけど、今回とにかく彼女の出目が良くて、ずっとずっと成功キメてたんです。ああ、彼と一緒にいたころの学生時代の彼女はこんな感じで無敵だったんだろうなと思って、その輝いていた思い出を抱きしめながら、それでも前に進む感じの後日譚になりました。あと、彼女はやっぱり淡い恋のような気持ちも雨君に抱いてたんじゃないかな。テーマソングはきのこ帝国の「夢見る頃を過ぎても」。

 彼女はとあるちょっと大きめのシナリオを通過した子でして、その要素もちょっとだけ後日譚に盛り込んでます。あのシナリオの後で雨君に「静葉さんなら、いつか、世界も救っちゃうんじゃないかって気がするよ」っていわれちゃったら、ねえ! こうなりますよ!(伝わる人にだけ伝われ)。別れ際に、雨くんの顔を指で作ったフレームに収めたのも、静葉にしかわからない、特別な思い出のつくり方でした。

そんなわけで、ここで新たな思い出を得た静葉の物語は、まだまだ続いていきそう。あの子の声を覚えておく耳と、彼の笑顔を覚えておく目を携えて、彼女にはこれからも頑張ってほしいものです。

それでは感想はこのあたりで、KPの小笠原ナカジ様、改めてありがとうございました。さんざん悩むPLに辛抱強く付き合って、時には助け船も出していただいてありがとうございます! よければまた遊びましょう!
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柏木
柏木マダラ
2020/09/04 00:17[web全体で公開]
> 日記:白夜の歌 ちょっとあとのこと
かっこよくって、面白くって、無事吐血。
今回も本当にありがとうございました!!!
私も最後の静葉ちゃんの「私たちのチームは、そもそもの最初から、全員が時間通りには集まらなかったんです」めっちゃ好きでした。
聞いた時は流石やなぁ。って。
3つこ言葉を並べるのも、難しい単語ばかりだったけど好きでした!
静葉ちゃん、恋人できるといいなぁ。いい子なんだよなぁ。
からかわれた時は、ちょっとムカついたけどおひいさんも多分静葉ちゃんの事は嫌いじゃないと思います。だって、思った事を口にしてしまうのは一緒ですもん!同族嫌悪はしないはず!
チケットが送られて来てるのがその証拠なんやで!気づいて、静葉ちゃん!
チームforte!めっちゃ好きや.。ネーミングセンスが輝いてやがる✨
PLはめちゃくちゃこの名前大好きでした。

研究やらなんやら頑張ってね!!立場上ちょっと手出しが難しいんだけど、精一杯、援助はするからね?

牢獄の悪夢もよろしくお願いいたします!
りちゃ
りちゃマダラ
2020/09/03 00:51[web全体で公開]
> 日記:白夜の歌 ちょっとあとのこと
伝言ありがとうございました!
静葉さんの生活感というか、現実感というか、3単語追撃の中にポルノグラフィティだとかが混じってくるのが好きでした。地に足がついてる感。
そして、無い物ねだりじゃなくてあるもので頑張るたくましさもあるなあって思ってて、カメラがないなら心のカメラだ!みたいに指でフレーム作ってたやつ、南波もあっちで使わてもらってます。いいわあ。
マッチングサイトに挑戦してみたり、鯖の味噌煮食べてるのもいいなあ。意外なようですごくしっくりきました。

チームForteは、気持ち的な前衛後衛、ステータス的な前衛後衛、ぶっとび度的な前衛後衛が入り混じってて楽しかったなあ。ナイスネーミングでした!
頑張れ静葉さん!またね!
マダラ
マダラ日記
2020/09/02 15:23[web全体で公開]
😶 白夜の歌 ちょっとあとのこと
(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)『当店の惣菜は清潔な環境で調理しています』
 スーパーマーケットの惣菜売り場。そんな文言の記されたパネルが私の目に留まった。ごちゃごちゃとした色彩と目を覆いたくなるようなフォントの暴力に眉を顰め、私は口の中でぼそぼそと単語を並べ立てる。

 清潔、浄化、無菌室。

 そのとき、私の目の前を、小さな少年が通り過ぎる。いかにも躾のなっていない様子と、いかにも清潔さを保っていない指で、彼はべたべたと惣菜に指を触れた。顔をしかめ、私は踵を返して惣菜売りから立ち去る。

 ああ、でも、本当にただ清潔な世界に比べれば、何倍かマシだな。食べたくはないけど。
 頭の中を、あの砂漠がよぎり、それと同時に喉の奥から言葉があふれる。三つのセンテンス。ボキャブラリーの訓練。脈絡なんて考えちゃいけない。だって世界には脈絡なんてない、あるのは気まぐれな共通項だけ。

 月の砂漠を、はるばると。旅の駱駝が行きました。

 月、砂漠。

「月の砂漠。月、十五夜、兎。砂漠、……サバ、味噌煮」

 ぶつぶつとつぶやいて、私は鯖の缶詰を手に取った。脈絡のない言葉の結びつけも、たまにはなにかの役に立つ。特に夕食を決めるような場合には。
 脈絡のない出会いも、きっとそういうものなのだ。
 
     *****

 小さなアパートの一室の玄関に足を踏み入れ、私は大きくため息をついた。
 別に大して疲れてはいないのだけれど、これはあくまで一つの儀式だ。フリーのネットライターなんてしていると、オンとオフの概念があやふやになる。仕事がない時は休みで、仕事がある時は休みじゃない。普通の勤め人がそうするように、夜に家に帰ってきて疲れたように息をつくポーズを取らないと、生活からメリハリが失われてしまう。
 買い物袋をテーブルに置き、缶詰と缶ビールを取り出す。麦酒の泡立つ小気味よい音に耳を傾けながら、最近新調したノートPCを操作して、メールの着信を確かめる。

 マッチングサイトで知り合って多少話したものの、急な取材のためにデートの約束を守れなかった相手からの奥ゆかしい非難が一件。別に元々たいして好きじゃなかった。別に。
 とある企業からの訴訟で世話になった弁護士からの法律用語で美しく飾られた心配と忠告が一件。君が最近個人的に興味を持っている研究機関に、警察に過去にあったある組織。どちらも正気の人間なら目をつむるべきだ。頼むから訴訟漬けになるより前に、地元中学のマーチングバンドとかなにかそういう平和なモノを取材しろとか何とか。
 そして、記事を書いているサイトの担当者からの着信が一件。壱岐島における君の取材と記事には、端的に言って失望した。文章や筋立てがどんなに良くても、新聞とは違ってうちには日々の小説欄はないのだ。この原稿は出版社の文芸部に持っていった方がいい云々。

 デート相手や仕事の担当には少しも謝る気は起きなかったが、弁護士には悪いと言わざるを得ない。でも私にはあの団体の動きを監視する使命があるような気がした。また連中が何かしでかすとなったら、危険を覚悟で告発しないといけないのだ。まあ、いざとなれば日本有数の財閥も味方してくれるかもしれないし、命の心配だけはして、あとはこれまで通りにやるだけだ。誰かさん曰く、死なない限りはなんとかなる。

 とにかく、そんなすべてをゴミ箱に放り込んで、私は鯖の味噌煮を箸でほぐす。目をあげると、壁に掛けられたクリップボードが眼に入る。普段は進行中の取材に関するメモや写真を張り付けているその場所には、今は四枚の写真と、いくつものメモがあった。

 喉を鳴らしてビールを飲むと、私は目をつむる。それから小さく十秒数えて、私は思い切り目を開いた。素早く唇を動かす。いつものトレーニング。まずは左から。

「ガイド、バギー、自衛官、行動力」
 彼にはきっとまた会うことになるだろう。今度はバカンスにでも行きたいものだ。そう、きっと近いうちに、今度は観光地とか、おいしい店とか、そういう場所を教えてもらわなくては。きっとあのぶっきらぼうな口調で、何かとはっきりしない私を引っ張りまわしてくれるはずだ。

「アイドル、財閥の娘、マフラー、秘めたやさしさ」
 彼女には嫌われてしまったかも。でもまあ、ライブのチケットは送られてきた。大音響にはまだトラウマがあるけれど、響くのが綺麗な歌なら、きっと怖がる必要はない。

「研究者、元刑事、理屈っぽい、……あの人の友達」
 新聞社時代に世話になった、女性記者の先輩。あの人は彼のことも随分評価していたっけ。彼はあの人から聞いていて想像していたヒーローより、なんというか、こう、うん、だいぶ人間らしかったと言っておこう。彼とは会う約束を取り付けている。露骨に嫌な顔をされたが、放っておくと死にそうなのだから仕方がない。彼には是非とも、研究を成し遂げてもらわないといけないのだ。

「メカニック、名匠の弟子、修理、約束」
 彼の師匠を探すのは容易かった。専門外の私でも名前を耳に挟んだことがあるほどのメカニックだ。彼はぶっきらぼうに、弟子の伝言を伝えた私に礼を述べてくれた。彼のことは幾分毒のある口調で責めていたが、それでもその言葉にあふれる愛を聞き逃す私ではない。

 トレーニングを終え、私は満足した顔でもう一度ボード全体を見渡す。うん、奇妙な共通項しかなくても、そこには確かな物語がある。

 PCをもう一度開き、映画のサイトを開く。出会いのない仕事で、夜はビールとつまみと古いフランス映画で過ごしてたんじゃ、当分恋人は望めないだろうな。まあでも、これが心地いいんだから仕方ない。

 ジャン・コクトー監督、『オルフェ』。

 死者と生者の叶わぬ恋の物語。もう何度も観たお気に入りのその物語が展開されるのをぼおっと眺める。

「砂漠の女の子、歌、駱駝、変な野菜、水、チョコレート、月、丘、赤い花」

 また唇が勝手にセンテンスを刻んでいることに気づき、私は思わず唇の端を引き上げる。本当に悪い癖だ。でも癖なんだから仕方がない。
 それに、覚えておかなくてはいけないことがある。守らなければいけない約束がある。
 
 心に留めておかなければいけない“またね”がある。

 そのために私は言葉を刻む。今日も明日も、これから先も、ずっと。脈絡のない出会いと、奇妙な一夜を、伝え続ける。

 だから、私はもう一度目をつむった。
 浮かぶのは月夜の砂漠の風景。風変わりな動物にまたがって進む、二つの影。

「……大切な友達」

 私の唇が再び、頭に浮かんだ言葉を勝手に紡ぐ。その感触を何度も味わいながら、私はすっかりぬるくなったビールを一息に飲みほした。






 はい、というわけで9/1に完走した「白夜の歌」(KP:瑠奈様 PL:時雨様 じゃが様 りちゃ様 柏木様 マダラ)に参加したマダラのPC:青桐静葉の後日譚妄想でした。

 いやーよかった! もうずっとずっと、CoC始める前から行きたかったシナリオなんですよ。
辿り着いたエンドはA-1、全員生還(一人は帰らないことを選んだかたち)となりました。憧れの物語を素敵なメンバーと一緒に頑張って走り抜けて、素敵なエンドにゴールインできてほんとによかった。
 PC、NPC、舞台、描写、全部がとてもいい雰囲気にあふれていて、ワンシーンワンシーンを絵として切り取ってみてみたくなるような、そんなセッションでした。
 いやまあセッション中はドキドキだったんですけどね。発狂でみんな揃って死にかけたり、最終戦闘もほんとにギリギリだったり。最後の最後、このラウンドで倒さないとというタイミングでみんなが行動を終え、非戦闘員の青桐にお鉢が回ってきたときは本当に息が止まるかと思いました。「人の特ダネ邪魔すんなパンチ」でとどめを刺せた時は、ジャーナリスト魂ここにありって感じしましたね。

 NPCのシンちゃん(かわいい)となかよくしたりオルフェに名前つけたりして、会話の一つ一つを楽しめたと思います。コクトー、また会えるといいね。

 青桐の連想ゲームじみた単語ならべロールプレイも楽しかったな。FチームのFから連想広げた時に、「Forte」なんじゃないかっていう発言をしたら、それがチーム名みたいになってラストのロールプレイに組み込んでもらえたのはちょっとうれしはずかしって感じですね。最後にみんなでおっきな声で歌えてよかった。

 全体的にバラバラなんだけど、なんか妙にまとまりのあるチームだったと思います。それは青桐にとっては日ごろ並べ立ててる言葉たちのように見えるんじゃないかと思って、こういう感じの後日譚になりました。帰ってきたあと、とある関係者に自分たちの旅を語る役目を任された時の彼女の語り出しが「私たちのチームは、そもそもの最初から、全員が時間通りには集まらなかったんです」だったのは我ながらお気に入り。

 ではこのあたりで。同卓してくださった時雨様、じゃが様、りちゃ様、柏木様。そしてKPの瑠奈様。ありがとうございました。また、次の悪夢で会いましょう。
いいね! 13

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