小笠原ナカジさんの日記 「「頭夢児島殺人事件」後日談。」

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小笠原ナカジ
小笠原ナカジ日記
2020/11/25 03:13[web全体で公開]
😶 「頭夢児島殺人事件」後日談。
(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)「拝啓、碇屋小唄様」

かつりと硬い音を立てながらキーを押し込んで、一文字一文字確かめながら文章を入力する。
最新機種という謳い文句の携帯電話を購入したのはつい先日のことで、まだ手に馴染みのない感覚に苦戦しながらメールを書き進めていく。傷一つない液晶の真っ白な背景に文字が映し出される度に「この年齢まで触れてこなかったなんて!」と、渋い顔を隠すこともなく使い方を説明してくれた友人たちを思い出して苦笑いがこぼれてしまった。
「あんたの文章はいつもお堅いんだよ」と、旅をしながらもたまに会いに来て下さる小唄さんは、たまにそうやって私の頭をぐりぐりと撫でてくれる。
お姉様がいらっしゃったら、きっとこんな他人と関わるようなこと、極端に否定されていたに違いない。
そうでなくとも島外の学校へ通うことを願い出たときにそれはそれは思い出すのも拒みたくなる程の叱責を頂いたのだ、幼い頃にされていたようにぴしゃりと鞭を打たれていたかも。

暖かな日だまりの窓辺に腰掛け、休憩がてら慣れないメール作成に悪戦苦闘しながらここ数ヶ月のことを思い出す。

あの事件の後、頭夢児家の最後の一人となってしまった月香に(いや、私にとっては今も「いと」なのだけど)「私よりもずっと長い間月香でいたあなたが決めるといい」と、頭夢児島を含めた一切の決断を託された。
その言葉を受けて、せめて事件のことがひと段落するまではという期間を設けて、私と彼女が元に戻るという問題はおあずけといった状態となっている。そもそも頭夢児月香として何も知らずにのうのうと生きていたのは私なので、後始末とも言える全てをいとに丸投げするなど余りに無責任だと感じたからだ。それに、あの入れ替わりの呪術というものが酷く不安定だという情報もあったため、即座に試すには不安が残ると反対されたこともある。
いとは最初こそ「元はといえば私の家族の問題だから」と言っていたけれど、私にとってもあの人たちは大事な家族なのだと伝えれば、仕方ないなと困ったように笑いながら、一人で背負わないことを条件にその条件を飲んでくれた。

頭夢児島に関してはその一切を手放すことを決めた。
正確には島の所有権利を持ったままではあるのだけれども。今後私やその関係者以外が無断で立ち入ること、近辺の海域に接近することを禁止としたのである。
私はあの屋敷を出て本土に居を移した。頭夢児の莫大な遺産を受け継ぐことになってしまったけれど、それらのほとんどはこれまで頭夢児の被害者となった方々のご遺族に弁護士や法律機関を通して匿名で渡してもらい、今は手元に残ったもので細々と生活をしている。
屋敷のことをどうするかは今も決められずにいる。碇屋さんや伊奈名さん、金具間さんは「燃やせばいいんじゃない?」と冗談を仰っていたのだけど、思い出の多い場所だったし、お兄様やお姉様の事を思うと、そうすることは躊躇われたのでお断りした(伊奈名さんは既にどこからか松明を用意していたようだったのだけど、まさか冗談ですよね?)。
臥龍岡さんにお姉様の遺品である、いつも身につけていたブローチをお渡しした。ご迷惑だったかもしれないけど、彼がお姉様と約束したと聞いて、せめて彼女の想いだけでも連れて行ってもらえたら、そう思ったからだった。彼はほんの少しだけ悲しげに目を伏せると、「ええ、お預かりします」と平時の柔らかな微笑みを浮かべながら、受け取ってくれた。
未だ手つかずの問題は多いけれど、そういった手続きを終えて少しだけ落ち着いてきたのはここ数日のことだ。
本来なら10年前の凄惨な事件を思えばもっと早くにこうすべきだったのかもしれないけれど、つい先日まであの化物に支配されていた頭夢児では、そんなことは叶うはずもなかったのだろう。
得体も知れず、存在すら感じなかった、だけど表裏の先に確かにあった恐怖。
長く長く途方もない時間を経て、数え切れない程の後悔と犠牲の果てに、ようやく私たちは解放されたのだ。

けれど、犯してきた罪が消えることは決してない。
それは何も知らなかった、関わっていなかったとはいえ、その罪のそばにいた私も例外ではないだろう。
警察から事情聴取を受けたあと、臥龍岡さんに娘を探して欲しいと頼んだという女性と話をする機会があった。
彼女は、酷く悲しそうな表情を浮かべて「どうして、どうして」と苦しげに涙を流していた。
それでも私を責めようとはせず「娘から送られてきた手紙にあなたのことが書かれていた、あなたのことを凄く好いていたのよ」と、そう伝えられて、こみ上げる涙が堪えきれずその権利もないくせに泣き崩れてしまった。

島の人々を救えず、助けを求めていたお兄様も、一人戦い続けていたお姉様も失ってしまった。
私たちに関わったことで亡くなってしまった余りに多くの人々。
これから先、私は加害者の身内として茨の道を生きることになるだろう。
きっと多くの石を投げつけられ、罵声を浴びせられ、同じ数だけの悲しみに向き合わねばならないだろう。
どんなに暗く険しい未来であっても、私はそれを受け入れて生きねばならない。
それが残された私にできる、唯一の償いであり、贖罪なのだ。

陽さんといとは私に着いてきてくれると言った。
特にいとは私は無関係だからいとが月香として生きることで償いたいと伝えられたけれど、私は私が頭夢児月香として生きてきた以上その罪を償う義務と権利は私にもあるのだと説き伏せた。
今は、三人で一緒に暮らしている。とはいえ、学生の身分で稼ぎのない私ではまともに二人に給金を支払えないと最初は断ったのだけど二人はいつの間にか仕事を見つけてきて、これで問題ないでしょうと微笑まれてしまいぐうの音も出なかったのは、果たしていい思い出なのだろうか。
「お嬢様」でなくなったにも関わらず、陽さんは時折私をお嬢様と呼ぶ。慣れ親しんだその呼び名に反応してしまう度、新しい環境になれない自分を自覚してなんだか恥ずかしくなる。同時に、あの幸せだった日々を思い出しては、胸がきゅうと音を立てて痛みを放つ。
それはもう、戻ることのない過ぎ去った眩い日々。

本当は、陽さんの低くて優しい声で名前を呼ばれると、泣きたくなるくらい幸せ。
そばにいられるだけで、私はきっとこれからもずっと生きていけるんじゃないかって、そんな気すらしてしまう。
世永さんや田村坂さんを見ていてその仲睦まじい様子に酷く憧れを抱いた。あの事件の後再会した時、そう伝えれば彼らは、「君も、あの使用人くんと想い合っているように見えるけれど」と目を細めながら笑ってみせてくれた。
幼い頃から秘めていた淡い想いは、いつしか大きく膨れ上がり、育ちきってしまった。触れた指先に感じる暖かさに安堵しては、彼の心を乞う言葉を告げたくなる日もあったけれど。
私は幸せになる権利なんかない、なんて、悲劇のヒロインのようなことを言うつもりはない。
だけど、私がもし、この腹に命を宿してしまったら。
それがもし、あの忌まわしい縁を繋いでしまったら。
そんな恐怖が時折心をよぎる。
だから、私は生涯この恋心を伝えることは、もうないだろう。
万にひとつの可能性を否定できないならば、あの化物がもう二度とこの世に存在しないように。
彼への愛をこの胸に隠したまま、私はこれからも生きていくと決めた。

それでも、ねえ、陽さん。私、あなたを愛したままでも許されるかしら。

不意に鼻先を濃い油の匂いがかすり、意識を浮上させる。
物思いにふけると時間を忘れてしまうのは昔から私のよくない癖だと、留芽さんや真美子さん、旭さんもそう言っていたっけ。
したためた文章に不備がないかを確認して送信ボタンを押すと、私はキャンバスの前に戻った。
イーゼルに立てかけられた作品はもう少しで仕上がりそうなのだけど、なかなか納得のいくものにならない。
だけど、つり上がった厳しくも凛々しい目尻も、いつも柔らかく笑んでいた口元も、今でも鮮明に思い出せる。
筆に絵の具を載せて、再び作業に没頭する。
絵画の中には色褪せない、愛しい家族たちの姿。
ただひたすら、愛する人たちの幸せを祈るように描き続ける。
幸せな思い出のすべてを、この筆に込めながら。


◆◇◆◇◆
「頭夢児島殺人事件」、本当に素晴らしいシナリオでした。
まるでマーダーミステリーのような空気を持ちながらも、しっかりとクトゥルフで、所々の狂気的なホラー具合がとても素敵だったと思います。
ご一緒させていただいた方々のRPがまた凄いこと凄いこと。
秘匿HOをもとにキャラクターを作成したのですが、秘匿の先にもしっかりと謎があり、自分自身でも知らない秘密の多さにみんなで翻弄されて楽しかったの一言に尽きます。皆様本当に魅力的な方が多く、ずっと雑談タブでぎゃあぎゃあ黄色い悲鳴を上げていた私です…。(多分雑談タブのログのほとんどは私の悲鳴ばかりです)
マーシャルトレイにマーシャルフォーク、強かったです…!
私自身、RPを楽しみたい方向けという文句に惹かれてHOを選択させていただいたのですが、本当にこのHOをさせていただけて心から感謝しております。過去最高レベルで楽しかったし、出来る限りのことはがんばれたかなと思っております。とはいえ、推奨技能に目が行きがちで、応急手当などのヒーラーの役割を果たしきれなかったので、やっぱりバランスって大事よね!と反省点もあったり。
非常に重厚なシナリオで、シーンの切り替えや登場するNPCさんも多くいらっしゃったので大変だったろう、KPのトロさんの采配にも毎回ありがたさしかありません。長時間のセッションにも関わらず最後まで走り抜けてくださってありがとうございます。
ただ、私の都合が本当に厳しくて、最後に駆け足で締めをお願いしてしまったことが本当に心残りで仕方がないし、謎の多いシナリオだったからこそ申し訳ない気持ちでいっぱいです。途中で体調も崩してしまい、本当に申し訳なかった。
またいつかご一緒できたらいいなと願いつつ、次こそは体調やスケジュールに余裕を持って参加するぞ!と改めて決意している次第です。
ご一緒してくださった木枯らしさん、さあささん、Rouninさん、未咲さん、いわしのアタマさん、そしてKPのトロさん、
本当に本当に、素敵な時間をありがとうございました!!
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