佐藤さんの日記 「SW2.5小説:ラクシア文化談 メリアと塩害」

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佐藤
佐藤日記
2019/10/29 19:10[web全体で公開]
😶 SW2.5小説:ラクシア文化談 メリアと塩害
(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)
 ユーシズ魔導公国。その首都の街並みを歩きつつ、思索にふけっていると「ドゥルスカ先生!」と声をかけられた。声をかけてきたのは教え子だった。
 キルヒア様に仕える神官として、他の仕事の合間に幼童教育に携わっていた時に教えた人間だ。我々と違い、ほんの5年会わなかっただけで別人のように成長している。喜ばしい事だが、寿命の差を思うと少し寂しい。
 彼はいま、冒険者として働いているようだった。そして、その傍らにはハニカミ笑うメリアの少女の姿があった。仲睦まじい様子だった。
 メリアの少女と別れた後、教え子と茶を飲む事になった。
「あの子も一緒でなくて良かったのかな?」
「ホントは一緒が良かったんですけど、向こうは今日仕事が……。調香師の仕事をしてて……実は、俺達、付き合ってるんです!」
「ほう」
 そんな気はしていたが、少しだけ驚いた。少女が樹花系のメリアだった事を思い出しつつ、祝福した。だが、教え子は少し不安そうな表情をしていた。
「先生は、止めた方がいいって言わないんスか?」
「言わないさ。異種族恋愛、大いに結構」
 メリアと人間の間には子を成せない。彼はその事と世間体を気にしているようだ。もちろん、世間体などより彼女への愛を優先する気のようだが。
「子供がいなくても夫婦にはなれる。子供を作れない相手と愛し合ってはいけないという事はない。そのような法があっても、私は当事者達の気持ちを尊重したい」
「ありがとうございます! 結婚式にも来てやってください! 俺、次の仕事が無事に済んだら、あの子と同棲しようって思ってるんです」
「既に結婚まで考えているのか。良いね。式にはぜひ呼んでくれ。彼女もキミの事を非常に好いているように見えた。上手くやっているようだね」
「はい。まあ、ちょっとだけ、心配事はあるんですが……」
「ご両親の事かい? お互いの」
「それもあるんスけどね」
 聞くところによると、少女の親御さんは祝福してくれているらしい。ただ、教え子の親御さんの方にはまだ話が出来ていないようだ。
「それは何とかします。ただ、それだけじゃなくて、食事のことで……ちょっと」
「彼女の手料理が美味しくないのかな?」
「あ、いや! マズいってほどじゃなくて、ちょっと物足りなくて」
 彼女の方は少食そうに見えたが、量の話ではないだろう、彼は「マズいってほどじゃない」と言った。という事は物足りないのは味絡みだろう。
 察するに、味付けの文化差か。

「彼女の料理、薄味なのかな?」
「そうっス。そうなんスよ。手料理、すっごく手の込んだもので、おいしい……とは思うんスけど……味付けがちょっと、薄いなぁって密かに思ってて」
「メリアの家庭料理ではよくある事だ。彼女達にとっては普通なのだが」
「種族の問題なんですか?」
「種族が絡む食文化の違いさ」
 人間やエルフにはそこまで馴染みのない話だが、話しておくべきだろう。教え子はメリアの少女を愛している。ならばよく理解し、よく話し合うべきだ。
「メリアの家庭では塩が好まれなくてね。使用量も少ない。とある論文では温暖な地域に住むメリアと人間の一般家庭の塩消費量を比較した場合、4倍近く違ったという研究結果も存在している。寒冷地はさすがに事情が変わってくるが」
「そんなにっスか。確かに……塩気が足りなかったかなぁ……?」
 彼は手料理の味を思い出しているのか、アゴをさすりながらそう言った。
「でも、なんでそんな事に?」
「メリアは塩を食べると死ぬからね」
「えっ!?」
「と、いうのは半分冗談だ。が、そう思っているメリアもいてね」
 彼らは塩に対し、恐怖を抱いている。一応、そう思うだけの理由がある。
「塩害というものを知っているかな?」
「話ぐらいは聞いた事が。詳しくはないっスけど」
 塩害とは植物や建物、魔動機等の人工物が塩によって害されることの総称。
 塩そのものが植物を枯らすわけではなく、土壌中の塩分濃度が高くなると浸透圧に差が生じ、植物が根から水分を吸収しにくくなる、という事象が発生する。
 水分を摂取出来なければ枯れていく。これが植物を害する塩害だ。
「メリアは植物から人族になったと言われる種族だ。植物が被害を受ける塩害を恐れ、塩を忌避……嫌っている人がそれなりにいるんだ」
「実際は塩を食べてもいいんですよね? 大丈夫、なんですよね?」
「ああ。彼らが咲かす花の土壌は自分の肉体だからね。花にまで被害が及ぶほど、体内の塩分が高まるようなら花の前に身体がダメになる」
 塩の過剰摂取は大半の人族にとっても毒。メリアも同じだ。確かに塩が人を殺める事はあるが、行き過ぎた摂取量でなければ恐れる必要はない。
 むしろ、制限する事で体調を崩すことさえある。

「以前、とある山でメリアのアンデッドが数多く現れた事がある。私も神官としてその対処と弔いに関わった事がある」
 アンデッドそのものは冒険者達の力も借り、制圧できた。
 しかし、キルヒア様に仕える神官としては「なぜメリアのアンデッドがこれほど現れたのか」という事が気になった。私は検死のため、現場に残った。
 蛮族に殺された可能性も考えたが、そう断ずるには彼らの遺体には損壊が少なかった。殺害された後、アンデッドになったのであれば殴打、刺殺などの痕跡が残っているはずだ。だが無かった。肉は腐っていたが骨にそれらの跡が無かった。
「彼らは山奥の閉鎖的な集落で暮らすメリア達だった。近隣の住民ですら、隠れ潜んでいる彼らに気づいてなかった。そして、彼らの死には塩が絡んでいた」
「塩を食べ過ぎた……いや、逆ですか?」
「その通り。彼らは塩分の摂取不足で亡くなられた」
 メリアが感じる塩への恐怖。彼らはそれがよほど強かったのだろう。
 塩を恐れすぎ、食べなかった結果、死に至り、晒され続けた骸がアンデッドと化した。私は集落内の調査と遺体の解剖を行って分析し、そう判断した。
「えぇ……亡くなった人達の身体を捌いたんですか?」
「神聖魔法は傷も病も癒やす素晴らしい神の御業だが、死因の特定には必要でね。他の神殿では忌避される傾向にあるが、キルヒア神殿では嗜みとして扱う者もいる。まあ、専門の医師から見れば児戯のようなものだろうが」
 本人達にも話は聞いたのだがね。蘇生は拒まれたものの、操霊術師の業で話を聞かせてもらった。本人達も蛮族に襲撃された覚えはなく、正体不明の病に全員が侵されていき、死に至った事がわかった。
 その正体不明の病に塩が関わっていた。
「彼らが亡くなったのは、とある夏の日。あの時は猛暑が続いていてね……私もよく汗をかき、教室でも上半身裸で過ごしていたのだが、いたずら好きの子供が私の左乳首を強くひねり、私は激痛のあまり倒れた。いまでも、夢に見るよ」
「いや、夢にみるならアンデッドのことを見てくださいよ」
「確かに。まあ、ともかくとんでもなく暑い夏だった。よく汗をかいた。アンデッドとなっていたメリア達も大量の汗をかいたようだった」
 発汗は水分だけではなく、塩分も流出する。
 汗をかいたら水だけを飲めばいいわけではなく、塩飴などで塩分摂取した方がいい。それを怠ると最悪死ぬ。実際、メリア達の死因はそれだった。
「あのメリアの集落は元々、塩を遠ざけ摂取不足気味だった。そこに猛暑による大量発汗が体調不良の引き金を引き、全滅したんだ」
 塩を恐れていたため、塩を舐め、塩分を補給するという思考すらなかった。間接的に摂取はしていたが、それでは足りなかった。
「過剰摂取は確かによくないが、摂取不足も問題なんだ」
「じゃ、じゃあ、メリアの人達も俺達ぐらい塩気をとった方がいいんじゃ」
「彼女がキミと同量の塩を摂取するのは、あまりオススメしない」
「なんでですか?」
「キミが冒険者で、彼女が調香師だからだ」
 冒険者の仕事は肉体労働が主であり、汗をかいて塩分を失いやすい。対して彼女の方は冒険者ほど汗をかかない仕事だ。お互い、どちらかに合わせると過剰摂取や摂取不足を起こしかねない。
「それに好みの問題もあるからね。キミ基準の薄味に慣れた彼女にとって、彼女基準の濃い味はつらいものになる可能性がある。その事をお互いに理解し、それぞれにあった食事にした方がいい。調味料で皿ごとに調整できるようにしてね」
「なるほど。……でも、そっかぁ、メリアの人達って塩、好きじゃないんだ」
「メリアのことわざで『塩を送る』とは嫌がらせを意味するほどだ。もちろん、文化圏によって違うから全てのメリアがそう思うわけではないけどね」
「海も嫌いなんですかね?」
「その傾向もあるね」
 潮風をよく思わないメリアも存在している。海沿いへの定住を嫌がる者は多い。
 メリアだって他の人族と同じく、塩分を摂取する必要がある。
 過剰摂取しなければ死なない。しかし、科学的に大きな問題がなかろうと、気分的に好まれていないわけだ。その事が色んな事に響いている。
「肉や魚の塩漬けも好まれていないようだね」
「ハムも?」
「ハムも含まれる。贈り物にする時は気をつけた方がいいね」
 ただ、ウルシラ地方は少し事情が違う。
 メリアが多く暮らしているが、あそこは寒冷地。メリアであっても保存食作りに塩を大量に使う。同地域の他種族に比べるとやや少ないけどね。
「南国のメリアより大量に使うといっても、ある程度は控えるそうだ。保存食作りでも純粋な塩漬けを避け、燻製にしたりもしている。燻製液を使ってね」
「燻製かぁ……。一度、ブルライトの外に行った時、ウルシラの燻製チーズを食べた事あるんスけど、すげーうまかったっす。ウルシラのどこ産か知らねえっすけど」
「それはエユトルゴのチーズかもしれないね」
 緑豊かなウルシラ地方に茂る様々な木材を使い、芳醇な香りを宿した燻製は国外にも輸出されている。アヴァルフ妖精諸王国連邦、セブレイ森林共和国はメリア人口が多いため、厳しい冬に向けてそこら中で燻製を作っている。
 冬場は収穫も狩猟も難しいから、それに備えた保存食作りは避けられない。
 燻製の他にも乾物や酢漬けも作っている。メリア以外の人族は塩漬けもそれなりに食べるから、それを食べているうちに純粋な塩漬けが好きになるメリアもいる。塩漬けを食べたところで死ぬわけではなく、心情的に避けているだけだからね。
「色々あるんですねぇ。……俺、あの子を幸せにできるかな」
「大丈夫。これは相手をよく尊重し、よく話し合い、よく愛すれば解決する。その程度の問題さ」
「そっか……そうですよね!」
「ただ、キミの料理は薄味だとは中々言いづらいだろう。何なら私が協力しよう。改めて食事会でも開き、その席でさりげなく食文化に関するうんちくを話し、そこをとっかかりに話をしていけばいい」
「ありがとうございます!」
「ただ、申し訳ないのだが……私は1週間後にはユーシズを出る。それまでの間で良ければ私が同席できる。その先の話なら信頼出来る知人に代役を頼むよ」
「どこか遠くに行くんですか?」
「ハーヴェスで工事中の鉄道路線の視察だよ。……それに乗じて愚妹の説教……もとい、説得に行くつもりなのだが」
「説教?」
 私には愚妹がいる。ユーシズ暮らしではないのだが……その子がハーヴェスに行き、冒険者になったと聞いた。見つけ出して連行する予定なのだ。
 もっと早くそうしておけば良かった。自分の仕事の忙しさと、彼女の心傷を癒やすために田舎暮しをさせていたのだが、そこを飛び出したらしい。
「二十歳になったらウチの神殿に来る約束をしていたのだがね」
「……先生、キレてます?」
「そんな事はないよ。私は愚妹を大切に思っているし、年が離れている事もあって娘のように愛している。よく話し合う必要もあるね」
「妹さんの考えを尊重したりは……?」
「するよ。ただ、理屈でブン殴った後の話だね」
「怖っ……」
「怖くないよ」
 大丈夫、物理的に殴ったりはしない。
 理屈で、言葉で、諭すだけだ。
 お前はもやしっ子なのだから、冒険者など向いていない、と。
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