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2025/06/05 23:32
😶 クイック・アンド・ドロウ (▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)D&D5e長期キャンペーン「勇者の如く斃れよ」における、メインパートでは語られることのない、ひとりの魔術士の戦いの記録です。魔術士同士の戦いはいつだってサドンデスの危険性を孕んでいます。なお、本キャンペーンではハウスルールをいくつか使用しています。そのため、完全なオフィシャルな設定及び判定とは異なる描写があります。 プロローグ: 贖罪の戦い 男爵領西部地域、ウェルデ湖西岸のローレルス村。 夜の闇が村を包む中、一人の魔術士が森の端に佇んでいた。彼女の名はエルダ。栗色の髪が月光に映え、同じく栗色の瞳が鋭く輝く。美しいというよりも、いたずら好きな印象を与えがちな顔立ちだが、魔術士としての才覚は一流だ。しかし、彼女を知る者はこう囁く──「エルダは金にがめつい」と。 エルダの手には、親友であり同じく魔術士でもあるガスパールから借りた「次元門ノ匣」が握られていた。黒曜石のように輝く小さな箱は、古代の魔法文字が刻まれ、かすかな魔力を放っている。彼女はこのアイテムを手に、村を支配する死人使いンーゲルブを倒し、村に孤立した女騎士アイリス・バラとその一行を救う使命を帯びていた。表向きの動機は、アイリスの父親である大貴族エルドライン卿から多額の恩賞を得ることだ。「こんな危険な仕事、報酬がなくちゃやってられないわ」と、エルダは栗色の髪をかき上げながら呟いた。 だが、彼女の本心はもっと深いところにあった。半年前、エルダは自身の選択ミスが原因でアイリスを死に追いやったことがあった。その時の記憶はエルダの深層心理に刻まれ、今も彼女を苛む。アイリスは一度は死亡したものの、教会の一部の高位司祭により、政治的な手段として生き返ってた。だが、エルダはその罪悪感から逃れられずにいた。「今度こそ、アイリスを救わくては。二度と同じ過ちを繰り返さないために」と、彼女は心の中で呟いていた。金への執着は彼女の動機の一部に過ぎず、贖罪の願いが彼女を突き動かしていた。 序: ンーゲルブの秘密 エルダは「次元門ノ匣」を使い、ンーゲルブの情報を事前に探っていた。このアイテムの次元間の微弱なポータルを開く能力を使えば、敵の拠点や弱点を遠隔で探ることができる。彼女は村の外れに陣を構え、匣を通じてンーゲルブの居城を覗き見た。そこには、死者の軍勢が蠢き、ンーゲルブが不気味な杖を手に呪文を唱えている姿があった。 「これは……『オルカスの杖』?」 エルダの栗色の瞳が鋭く光った。死と破壊の王オルカスに由来する伝説のアーティファクト「オルカスの杖」は、死者の魂を支配し、死者の国を築くほどの力を秘めているとされる。だが──。「いや、これは本物じゃない。おそらくは疑似アーティファクト。けれど、その力は本物に近い……これがンーゲルブの力の源ね」 エルダの推理は正しかった。ンーゲルブは「オルカスの杖」の偽物を使って、死者の魂を束ね、村を支配する小さな死者の国を形成していたのだ。彼女は確信した。「この杖をンーゲルブから切り離せば、奴の力を大幅に削げる。アイリスを救うには、これしかない!」 破: 「次元門ノ匣」の賭け エルダは「次元門ノ匣」のもう一つの力、特定の対象を次元界のはざまに封印する能力を使うことを決めた。ンーゲルブ自身を封印するにはリスクが大きすぎる。だが、「オルカスの杖」だけを別の次元に放逐すれば、ンーゲルブの力を奪い、戦いを有利に進められるはずだ。 彼女は森の中で儀式を始めた。「次元門ノ匣」を地面に置き、呪文を唱える。匣が光を放ち、小さな次元ポータルが開いた。エルダは全神経を集中させ、「オルカスの杖」をターゲットに定めた。ンーゲルブが杖を手にしている瞬間を狙い、ポータルの力を解放する。 「次元門ノ匣よ、開け! この杖を遠く次元界のはざまへ放逐せよ!」 一瞬、空間が歪み、ンーゲルブの居城から杖が消えた。エルダの魔法は成功したかに見えた。だが、彼女の顔はすぐに曇った。手ごたえに違和感を感じたのだ。匣を通じて転送先を確認したところ、もどかしい数分ののちに「オルカスの杖」は異なる次元界ではなく、同一の次元内に放逐したに過ぎなかったことが分かった。 「失敗した……! 距離が近すぎる。次元界の壁を越えられなかったのね」 エルダは唇を噛んだ。彼女の魔力では、「次元門ノ匣」の封印能力を完全には引き出せなかった。それでも、ンーゲルブから杖を切り離すことには成功した。「これで奴の力は弱まったはず。アイリスを救うには充分!」 急: 最後の戦いと敗北 エルダはローレルス村の中心、ンーゲルブの居城へと突き進んだ。杖を失ったンーゲルブは激昂し、死者の軍勢を率いてエルダを迎え撃つ。だが、杖を失ったことで彼の支配力は明らかに弱まっていた。エルダは炎の魔法で死者を焼き払い、ンーゲルブを追い詰めた。 「終わりよ、死人使い! アイリスを返しなさい!」 彼女の声は凛と響き、栗色の瞳は決意に燃えていた。だが、心の奥では過去のトラウマが蘇っていた。「今度こそ、アイリスを守らなくては……私のせいで二度と死なせはしない!」 しかし、ンーゲルブはまだ力を失っていなかった。彼は指に嵌めた「術返しの指輪」を密かに起動させていた。この指輪は、敵の魔法を反射し、術者に跳ね返す恐ろしい魔力を秘めていた。エルダが最後の大魔法「雷撃の裁き」を放とうとした瞬間、ンーゲルブの指輪が輝き、彼女の魔法がそのまま自身に跳ね返った。 「まさか!?」 エルダの栗色の瞳が見開かれた瞬間、彼女自身の魔法が彼女を襲った。夜陰を切り裂く雷光が彼女を貫き、凄まじい衝撃が彼女の体を打ち砕いた。エルダは血を吐きながら倒れ込む。彼女の視界が暗くなり、最後に耳朶を打ったのは、死闘に勝ち、哄笑を挙げる死人使いのしわがれた声だった。既に冴え冴えと冬の夜空に輝く月は瞳孔に映らなかった。 「アイリス……また、失敗した……ごめんね……」 エルダの意識はそこで途切れた。彼女はあと一歩のところまで死人使いを追い詰めていた。だが「術返しの指輪」までは想定できなかった。それでも、彼女の最後の賭けは無駄ではなかった。「オルカスの杖」をンーゲルブから切り離したことで、後の者たちに希望を残したのだ。
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2025/06/05 23:32
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