らいとさんの過去のタイムライン

2022年07月

らいと
らいと日記

2022/07/04 14:42

[web全体で公開]
😶 アフターストーリー③「心傷夢③」
(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)――――目が覚めるとそこは、見慣れた自分の部屋だった。
ベッドの上で上体を起こすと、少しだけ頭が痛む。
「いてて…。久しぶりに昔の夢を見ていただけのはずなのにすごい頭がくらくらする」
数年前、私は両親を殺され、紆余曲折あり現在は探偵事務所を開いている。
失踪した姉たちは未だに見つけられず、親殺しの犯人もまた、復讐出来ずにいる。
「うーん、なんだろう。なんか大事なこと忘れている気がするようなしないような……まあいいでしょう」
思い出せないなら大したことじゃないんだろうと思い、思考を放棄することにした。
それにしても、本当に懐かしい夢を見たものだ。
ベッドから立ち上がり、最低限の身支度を整える。
そして、部屋に用意しているコーヒーメーカーに水を入れスイッチを入れる。
「そういえば、今日は依頼の予定は入ってましたっけ」
私はスマホを手に取り、スケジュールを確認する。
「今日は何もなし…っと」
私は確認を終えると、出来上がったコーヒーにぼとぼとと角砂糖5,6個入れて、片手にチビチビと飲みながらリビング兼職場の事務所へと足を運ぶ。
扉を開けると、来客用のソファーに座った白く細長い髪をした美少女が目に入る。
「こんにちは、カラちゃん」
「はい、おはようございますアリアさん。コーヒー飲みますか?」
私は、彼女に話しかけながら向かい側の椅子に腰を下ろし、彼女専用のマグカップにコーヒーを注いでいく。
「あ、ありがとう」
彼女は嬉しそうな表情で私に微笑みかける。
その笑顔を見ると、何故か心が暖かくなるのを感じる
「それと、敬語は使わなくていいのに」
「すみません、まだタメ語で話すことに慣れてなくて…」
「もう、仕方ないなぁ」
彼女はそう言いながらも、どこか楽しげな様子だ。
「アリアさんはこれから仕事ですか?」
「うん。10時からレコーディングの仕事で、13時から撮影が入ってるかな」
「そうだったんですね。お疲れ様です」
「ふふっ、ありがとう。あ、そうだカラちゃん。この後時間ある?良かったら一緒に朝ご飯食べに行きたいんだけど」
彼女がこちらの様子を伺いながら尋ねてくる。
「ごめんなさい。ちょっと用事があって……」
「そっかぁ、残念。また今度にしようか」
彼女の誘いに乗れないことを申し訳なく思っていると、彼女は気にしてないと言わんばかりに笑ってくれた。
「それじゃあ、私は行ってくるね」
「あ、はい。行ってらっしゃい」
私がそう言うと、彼女は満足げに事務所を出て行った。
「さて、次はあの本だったかな」
仕事がない日は基本的に朝から夜までアラビア語の文献をよく読み漁っている。
それは、マダムへの対抗策を一つでも見つけようとする私なりの決意であり、日々のルーティンワークでもある。
「えっと、この本はどこに置いたっけ」
事務所の本棚に乱雑に置かれた本の山から目的の一冊を探していると、不意に懐かしい本が視界に入った。
それは、唯一あの家から持ってきていたもので。家族との記録が詰まったアルバムだった。
「……懐かしいな」
私は、その本を手にとって眺めた。
中に入っている写真はどれも懐かしく、写っている全員が笑ったり、泣いたり、怒ったり色んな表情をしている。
しかし……
「あれ、この写真」
一枚の写真が私の目に止まった。そこに写っていたのは、幼い私と姉の二人で撮った最後の写真で。
「……こんな写真ありましたっけ」
姉がいなくなった時も、両親の葬式の時もこの写真を見ている余裕なんて無かったから記憶にはないけれど。
確かに、この写真には姉がいたはずだ。
「うーん、思い出せませんね」
少し気になったけど、思い出せなかった。まあたいしたことでもないだろうと、考えるのをやめた。
「さて、今日も一日頑張りますか」
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らいと
らいと日記

2022/07/04 14:41

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😶 アフターストーリー③「心傷夢②」
(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)―――――しかし、どれほど待っても痛みはやってこなかった。

「貴方は悪くありませんよ」

その代わり、そんな優しい声が聞こえてきた。
そして、目を閉じているはずなのに眩く感じるほどの光を肌で感じた。
恐る恐る、目を開けてみるとそこにいたのは――

「よく頑張ったね。カラちゃん」

――アリアさんだった。
その『姉』のようなものは必死に突き刺そうと力を入れているように見えるのに対し、アリアさんは片手から発生させている障壁のようなもので余裕そうに止めていた。
 何故アリアさんが急に現れたのか、そんな疑問が脳によぎるよりも前に私はアリアさんのもう片方の手で頭を撫でられていた。
その手つきは優しく、温かいものであった。
私はその心地よさに思わず涙がこぼれそうになったが、それを堪えて彼女に感謝の言葉を伝えたかった。
しかし、何故かうまく声が出せなかった。
喉の奥から何か熱いものが込み上げてきて、上手く話せないのだ。

「ごめんね。遅くなっちゃって……でも、大丈夫だよ。私がいる限りカラちゃんは傷つけさせないから。だから、安心して」

アリアさんは、私に諭すようにそう語りかけてくれる。
そして、アリアさんは私からその黒い靄にへと向き直った。

「貴方の正体は、もうわかっています」

そう淡々と告げると、ゆっくりと指さし、言い放つ。

「貴方は、カラちゃんの夢や記憶を依代に生き残ったマダム細胞の残滓そのものです!」

 その言葉に、私は衝撃を受けた。
あのとき、打たれたマダム細胞がこんな形で私の身体に残っていたということに一種の気持ち悪ささえ覚えた。
黒い靄だったものは、次第に形を変えていった。
その姿は、人のようだった。
それは、人の姿に変貌していく。
見間違えるはずがない、それはマダム=ジュリアそのものだった。
瞬間、私の中に強い憎悪と殺意が芽生えた。
私は、アリアさんに庇われながら、マダム=ジュリアを睨む。
「マダムゥ……ッ!!」
私はありったけの憎悪を込めて叫ぶ。
しかし、マダム=ジュリアは涼しい顔をしながら私の方を見て、そして笑った。
「フッ、アハハッ!まさか、ここまで辿り
着くとは思わなかったわ。そこのカラトーよりよっぽど探偵に向いてるんじゃないか?お前」
その声は、以前聞いたものと何も変わっていなかった。
しかし、その口調や仕草はまるで別人のそれであった。
 私はそのことに違和感を覚えつつも、目の前にいるこの憎き女を殺ることしか頭になかった。
「黙れぇ!お前を、私の家族を殺したお前を今ここで殺してやる!」
私は必死になって叫ぶが、それは虚しくもアリアさんによって制止された。
「落ち着いてください。カラちゃん。ここは私に任せてください。すぐに終わらせますので」
「離してください!!こいつは、私が殺します!」
私は必死に抵抗するが、それでもアリアさんの手を振りほどくことはできなかった。
すると、アリアさんは微笑みを浮かべて言った。
「大丈夫ですよ。貴方のことは私が守りますから」
その表情は、どこまでも優しかった。
そして、その優しさは今の私にとって何よりも残酷なものに感じられた。
だが、それでも今は彼女に甘えるしかないのだ。
だから、せめてもの思いでアリアさんに告げた。ありがとうと。
すると、彼女はまた笑顔で返してくれた。
「それじゃあ、ちょっと待っててくださいね」
彼女はそう言うと、再びマダム=ジュリアの方へ視線を向ける。
「ククッ、ここであたしに勝とうだって?無駄さ、無駄無駄。この空間はそこのそいつの夢空間、そこに直接根を張っているあたしと、ただ干渉してるだけのあんたじゃ、影響力が天と地ほどの差があるんだよ」
マダム=ジュリアはそう言いながらも余裕の態度を崩さない。
「いいえ、ここで貴女を倒しますよ」
アリアさんが自信満々に言い放った直後、私達の足元が突如として光り出した。
「なっ!?」
私は驚きの声を上げる。しかし、アリアさんは冷静だった。
「ほら、やっぱりこうなった」
そう呟いた次の瞬間には、私達は見知らぬ場所にいた。
真っ白な空間。そこには物と呼べるものは存在せず、どこまでもフラットな白いブロックが敷き詰められていた。
アリアさんは、そんな場所の中心に立っていた。
そして、マダム=ジュリアは――
「ここなら、誰にも邪魔されないね」
――アリアさんと対峙していた。
「なっ、なんだここは!」
流石のマダムも慌てた様子で、辺りを見渡している。
「この世界は、私がカラちゃんの夢にリンクすることで作った異空間――心象夢。ここでなら、貴方が夢に直接干渉することもできません」アリアさんはそう言うと、両手を広げながら言った。
「そして、この空間の権限は全て私にある」
アリアさんはそう言って、指を鳴らす。
「――なので、こんなこともできるんですよ」
その瞬間、アリアさんの周囲に無数の剣が現れた。それらはまるで生きているかのように空中に浮かんでいる。
それを見ていたマダムは、「チィッ」と舌打ちをしたかと思うと、即座に行動を起こした。
目で追うのもやっとなほどの卓越した身体能力で、一瞬にしてアリアさんとの距離を詰めたマダムは、その勢いのまま拳を放つ。
それはアリアさんを捉えたかに思われたが、アリアさんはそれを難なく受け止めた。
「フッ」
短い笑い声と共に、今度は蹴りが放たれる。
それもアリアさんは、やはり容易く受け流す。
その後もマダムは攻撃を続けるが、アリアさんはその全てをいとも簡単に防いでいった。
マダムの攻撃は、どれも一撃必殺だ。
常人であれば、防御すらままならないであろうその攻撃をアリアさんは、その華奢な身体で軽々と捌いている。
その光景に、私は呆然としていた。
「す、すごい……」
思わず、声が漏れてしまう。
しかし、マダムはそれでは諦めなかった。
「これならどうだ?」
そう言うと、マダムは空高く跳躍した。
そして、あまりの高さに見えなくなるとマダムはアリアさんに向かって急降下を始めた。
「こいつで終わりだ!」
マダムが叫び声を上げ、アリアさんに迫る。
それを迎撃するかのように、浮かんでいた無数の剣が向かっていくがマダムにはまるで効いていなかった。そのままのスピードでアリアさんに肉薄し、腕を振り下ろす。
しかし、それさえもアリアさんは片手で止めた。
「なっ!?」
驚くマダムを尻目に、アリアさんはもう片方の手で手刀を作り、振り上げた。
「ぐぅっ!!」
その攻撃は見事に決まり、マダムは吹き飛ばされた。
「こ、この程度……でぇ!」
マダムはなんとか立ち上がり、反撃に出ようとする。だが、その時には既にアリアさんの姿はなかった。
「どこを見てるんですか?私はここにいますよ」
背後から聞こえたその言葉に、マダムは振り返ろうとする。だが、それよりも早くアリアさんの手がマダムの腹に突き刺さった。
「ごふぁっ!……ば、ばかな」マダムはそのまま崩れ落ちるように倒れた。
「これでもう動けないでしょう。さあ、カラちゃん。今のうちに」
あまりに現実離れしていた戦いに呆けていた私は、アリアさんの声でハッとなる。そうだ、まだ終わっていない。アリアさんがマダムを無力化したとはいえ、まだこの夢は終わっていないのだ。
「アリアさん…ありがとうございます」
そう感謝を述べると、アリアさんは微笑んだ。
「ふふっ…。姉として当然のことをしたまでですよ」
アリアさんはそう言うと刃渡り90cm程の細長い日本刀を出現させた。
そして、その刀を私に手渡してくる。
「これは、貴方の記憶をもとに解析した貴方の両親を斬った刀です。これで……あのマダムを殺してください」
アリアさんの提案にただ、頷いた。
私の手に移った日本刀は、重いと身構えていたが夢の中だからか、意外にも軽くまるで雲を持っているように感じた。
「行きます」
私は短く告げると、倒れているマダムの元へ駆け出した。
これまで、マダムと何度も対峙してきたが一度も傷を負わせることができなかった。
むしろ、私が追い詰められ――仲間に助けてもらっていた。
その度に、悔しい、憎いといった負の感情はどんどんと大きくなっていって……。
何時しか、それしか考えられないようになっていた。
これは、夢だ。夢なんだ。
現実に影響なんてものはなく、私が起きれば終わってしまう胡蝶の世界。
だが、この心傷夢を現実の私が少しでも覚えていたのだとしたら、きっと少しは報われるだろう。そう思いながら、私はマダムの前に立った。
「ケッ、こんな形でてめぇに一度殺されなきゃならないとはな」
「そんな状態でも、減らず口は叩けるんですね」
マダムの体は、アリアさんの攻撃を受けた腹部を中心にボロボロになっていた。
「ハッ、ここは夢の中だ。そんなもん、何も関係ねえんだよ」
マダムはそう言うとケラケラと笑い出す。
「つまり、お前が夢のあたしを殺した所で、何も変わりやしねぇ。てめぇは一生現実のあたしを憎みながら死んでいくんだ」
「……」
マダムの言葉を聞きながらも、私は黙り込む。その通りだと思ったからだ。
例え、それがどんなに救いになる行為だとしても、それは現実でマダム殺したことにはならない。
「でも、私は……」
それでも、私に迷いはなかった。
ゆっくりと刀を構える。
不思議と身体が軽かった。
「何時か私は……あなたを殺します。絶対に」
私は、そう答えた。「ああ、やってみろよ」
マダムはそう言うと、地面を蹴り上げ突っ込んできた。
私は、刀を振りかざす。
しかし、マダムはそれよりも早く拳を振りかぶっている。
そして、その拳が放たれようとした瞬間だった。
『カラちゃん』
不意にアリアさんの声が聞こえてきた。
それと同時に、手に持っていた刀が光を放つ。
それは、とても暖かく優しい光で。
『頑張ってください!』
アリアさんはそう言うと、ニッコリと笑った。
「ああぁああっ!」
私は叫び声をあげながら、刀を振り抜いた。
刀から発せられた光が、マダムを包み込んだ。
「くそがァアアッ!クソォオオオオッ!!」
マダムの絶叫と共に、刀に纏わり付いていた光が霧散していく。
そこには、上半身を失ったマダムの死体だけが残っていた。
「はぁ……はぁ……。終わった…んです、か…?」
マダムを倒した後、しばらく立ち尽くしていた私はようやく我に返った。
「はい、終わりましたよ。お疲れ様です」
後ろから聞こえたアリアさんの声に振り返る。
気づけば私はアリアさんの胸の中にいた。
「アリア……さん」
「よく頑張りました」
アリアさんの胸に抱かれながら頭を撫でられる。
「はい……ぐすっ……」
その心地良さに思わず涙が出そうになる。
「……ありがとうございます。アリアさん」
「ふふっ、いいんですよ」
アリアさんがそう言うと、私とアリアさんの体が薄くなり始めていることに気づいた。
「アリアさん……これって」
「えぇ、夢の終わりですね」
アリアさんが悲しげな顔を浮かべる。
「貴方はこの夢を忘れるかもしれませんが…この思いは心に深く残ると思います」
私がアリアさんの胸から離れ、顔を見上げると。アリアさんは仄かに笑い。
「おめでとう、カラちゃん」
そう、告げられて。私の視界は真っ白になった。
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らいと
らいと日記

2022/07/04 14:38

[web全体で公開]
😶 アフターストーリー③「心傷夢①」
(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)昨日、こんな夢を見た。
 円型の蛍光灯の光に照らされながら、身長3尺ほどの小さな私が、両親と姉たちに囲われながら朗らかに笑っている。そんな夢。
笑っている、と言っても特段面白い笑い話をしているわけでもなく、身近な人間の失敗談を笑いの種にしているわけでもない。例えば、今日はたくさん勉強しただとか、たくさん友達と遊んだとか、そんなもの。しかし、そこにいる人たちにとっては、どれを取っても嬉しいだとか、喜ばしいと感激することばかりなのだ。
何故だか私はこれを夢だと自覚し、その光景を見続けている。
 私は、観測者だった。
幸せの光景をただ何もできずに、傍から淡々と見続けている。そこには、喉から手が出るほど欲しいものが、失ったものがあるというのに手も足も動かず、何もできない。
正直、羨ましかった。
夢の私が、今そこで笑っている私が羨ましくてしょうがなかった。
 しかし、渇望しているからこそこんな日々の光景を願ってしまっているのかもしれない。
こんな地獄を見せられている私からすれば、そうとしか思えなかった。
 そんな光景は、ふと靄がかかるように、希薄と化していく。それは、水の中に絵具を落としていくような感覚にも似ていた。そして、最後には真っ白な世界になっていく。しかし直ぐに、まっさらなキャンパスに色を塗りたくっていくかのように、鮮明な映像が描かれていく。
 そしてようやくと待たずして、その映像は流れ始めた。
 そこにあるのは、鼻は機能していないはずなのに、むせ返りそうになるほどの惨たらしい光景。確かにあの部屋のはずなのに、そこに照明の明りなんてものはなく異様に暗い雰囲気に包まれ、部屋の壁は赤黒いペンキをバケツごとぶっかけたような様相を呈しており、床には、先ほどの笑いの輪にいた両親の顔が横たわっていた。
しかし、その首は既に胴体から離れている。絶命しているのは、事実は火を見るよりも明らかだった。
 そんな中で、ただ一人生きている少女がいた。

私である。

血塗れになった部屋の中で、一人呆然と立ち尽くしている。
 目の前に広がるこの光景は、夢の中の光景ではないはずだ。これは、実際に起きたことだ。現実に起きた出来事だ。だから、この光景が私の記憶の中に存在していることは、当たり前のことなのだ。
 だから、私は早くこの悪夢が覚めてくれ。そう願いながら、瞼を閉じようと試みる。
そこで初めて、体が動くことに気づいた。
私は観客席から眺め続ける「観測者」から舞台を演じる「役者」へと変貌していることを理解した。
 ならば、することは一つであった。
この悪夢を終わらせる。それだけが今の私にできる最善の選択だった。
 私は、リビングからキッチンへと向かった。そして、包丁を手に取り、自分の腹を引き裂こうと包丁を振り下ろそうとした。
――そのときであった。

「ねぇ、なんで私達を見殺しにしたの?」

 そのゾッとする声に手が止まった。
その声質は、ひどく恐ろしいほど冷たいものだった。まるで、氷のように冷たく、刃物のような鋭さを持っていた。
その声は私の知っているものであるはずなのに、聞き馴染んだものであるはずなのに、まるで別人のそれに聞こえて仕方なかった。
私は、恐怖でまた先ほどのように体が動かなくなっていた。
それでも何とか視線だけ動かし、声の主の方へと向ける。
 するとそこには、あの日、突如として失踪した次女である姉の姿があった。
いや、正確には、姉の姿をした何かが立っていたのだ。
その何かは私の方へゆっくりと近づいてくる。
一歩ずつ歩みを進めるごとに、その姿は朧げになり、やがて真っ黒な影となった。
私は、必死に体を動かし、その場から逃げ出そうとする。しかし、金縛りにあったかのように体は動かない。それどころか、呼吸さえもままならない。
 そして、いつの間にか私の後ろにまで迫ってきていたそれは、再び口を開いた。

「ねえ、なんで?なんで、私達だけあんな目に会う必要があったの?」

 それは、怨念のこもった声で私に問いかけてくる。
答えられるはずがなかった。
何故なら、私はその答えにまだ到達できていないから。
 あのマダム=ジュリアが何故私たちの家族を襲ったのか、それを知らないから。
 そして、その問いに対する回答を持ち合わせていないから。
だから、答えることができなかった。

「ねえ、答えなさいよ」

 それに苛立ったのか、彼女はさらに語気を強める。
 その声には怒りと憎しみが込められていた。
彼女の口から言葉が紡がれていく度に、憎悪は膨らんでいく。
 もう既に、私はどうすることもできなかった。
だから、私はもう殺されるのだと悟った。
気づいたときには私が右手に持っていた包丁が手元から離れ、それが力強く握っていた。
私は歯を嚙みしめたが、それよりもこの悪夢が終わるのだとどこか安堵し、ゆっくりと瞼を閉じた。
 そして、怨念の混じった叫び声と共に得物が私に向かって差し迫る。
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