左遷さんの日記 「『パナケイア【初心者GM卓】』蛇足」

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左遷
左遷日記
2020/08/12 06:31[web全体で公開]
😶 『パナケイア【初心者GM卓】』蛇足
(▼ ネタバレを含むコメントを読む。 ▼)私は培養液の中で生まれた存在です。


品口大(シナグチマサル)博士の遺伝子情報をオリジナルに、斜歯忍軍によって生み出されたクローン。
それが私です。

最初に製造された被検体ということで命名されたのは1号という呼び名。

しばらくはのちの改造実験に耐えうる肉体強度と体積を確保するため、投薬や外科手術で成長を速成される日々。
人間で言えばこれが幼少期にあたるのでしょうか。

ある程度成長段階が進んだあと、方針が変更され知能の確保……いわゆる教育が開始されます。

後から知った話ではどうやら品口博士の働きかけでこの変更は起こったようです。

実験体として使い潰すだけであれば、余計な知能は邪魔になるはず……。
おそらくは、クローン体を日々の研究でも第二の自分として扱えるようにするべく、方針を変更したのでしょう。

このころから、私の育成に関わっていた他の研究者と違い、品口博士の接し方も変わってきました。

多くの研究者は機械端末を操作するように、事務的に被検体である私を扱います。
しかし品口博士だけはまるで私を他の研究者同様、人間のように話されるのです。

私は、それがなぜなのかわかりませんでした。

品口博士は研究所では斜歯忍軍に珍しく、人を大切にする倫理観を持つ人物として有名でした。
ゆえに、人間の被検体への態度であれば納得ができます。

ですが私はクローンです。
人ではない存在であるにも関わらず、なぜ品口博士はあのような姿勢で私に話しかけるのでしょう。

私の成長が進むにつれ、品口博士の私に対する態度は増々クローンに対するものとはかけ離れていきます。

肉体が改造に耐えられる段階まで達し、いくつかの実験装備を組み込まれる頃。
ついには他の研究者よりも、私を人間であるかのように扱われるようになっていました。

意味がわかりません。

私の受けた教育は機械科学や医学に偏っており、その知識では博士の考えを論理として導き出すことはできなかったのです。


わからない疑問を抱いたまま、過ぎていく日々ですがここで一つの転機が訪れます。

品口博士の体に、重い病が発現したのです。

斜歯忍軍の手を尽くしても治しえない病、このままでは品口博士は遠からずその生命活動を停止するでしょう。

私はそれを避けたいと考えました。
おそらくバックアップとして作られたクローンにとって、オリジナルを失うことは存在意義の喪失を意味するためでしょう。


品口博士の病を治すための研究は、比較的簡単に許可が下りました。
さいわいにもそのころの私は、ある程度研究者としても通用する段階まで成長していましたので。

病床へ送られた品口博士の研究室を引き継ぎ、私が最初に行ったことは『私』のクローンの製造です。
他の研究者と異なり、元は被検体であった私には部下として使えるような人間はおらず、必要な人手はこうして確保するしかないと考えたためです。

しかし、クローンのクローンという二重コピーが原因か、あるいは単純な私の研究者としての未熟か。
はじめて製造したクローンは、培養液の中で生命活動を停止します。
1号である私に倣い、その呼び名を2号と決めた翌日のことでした。
このクローン製造が上手くいったときには、品口博士へ成果報告を行おうと考えていましたが、その機会もまた失われました。

その後もクローン製造は失敗を続け、ようやく形になったのは被検体の呼び名が21号となったころ。
品口博士の病が更に悪化しました。

この段階で、製造したクローンたちによる人海戦術によって治療法を確立するという計画は不可能となります。
時間的にクローンを研究者として十分な段階まで成長させることができないのです。


新たな解決策を求め、斜歯忍軍に蓄えられた資料に目を通す日々。
私は、忍者の死亡時に発生するエネルギーに光明を見出します。

忍者が放つ最後の一撃は、それまでどんなに深い傷を負っていようと万全の状態へと忍者を戻します。
この回復力を転用できれば、品口博士を蝕む病も治療することができるでしょう。

しかし死亡時のエネルギーを研究するためには、実際に忍者をその状態にする必要がありました。

品口博士の倫理観から考えると、他の人間を犠牲にすることでその命を長らえることは拒否されるでしょう。

私よりも研究者として優秀な品口博士に、秘密を隠し通せるとも思いません。
病を癒やすまで隠せたとしても、その後秘密が発覚すれば最悪自らその命を絶つ可能性もあります。
ゴールは治療法の確立ではないのです。

よって私はこの実験の素材として、『私』を使用することとしました。
研究者を目指すのであればクローンを成長させる時間は足りませんが、忍者、とくに草程度であれば十分です。

品口博士は人は大切にされますが、私は人ではないクローンであり、私から製造したクローンもそれは同様です。
そうであれば品口博士もきっと拒否はされないでしょう。

忍者死亡時のエネルギーを凝縮した薬を作るため、クローンとして『私』を作り、それを素材にする日々。

『私』の呼び名が36号まで進むころ、ようやく試作品『パナケイア』は完成します。


形になったとはいえ、未だ試作品。
実証実験もせず品口博士に投与するわけにはいきません。

しかし都合よく同じ種類、同じ程度の病を抱える人間が見つかるはずもなく。
また薬を原因に被検体が命を落とせば、それはまた博士の倫理観からは許されざることです。

私はまた『私』を使うことを決めます。

品口博士の病を意図的に再現した病毒を『私』に打ち込み、投与したパナケイアで回復に至るか実験。

単純な効果の不足や、予期せぬ副次効果、はたまた素材とした『私』の脆弱さによって失敗すること12回。

パナケイアは完成に至りました。


これで品口博士の病を治すことができる。
そう思った矢先、研究所に侵入した忍者たちによって、パナケイアは盗み出され――。


§


私は戦いに敗れ、パナケイアの奪還は失敗しました。

もはや品口博士は体を起こすこともできず、いつ命を落としても不思議ではない状態です。
パナケイアの再作成はとても間に合わないでしょう。

品口博士の病を治すことは、不可能となりました。


ですが、まだ方法はあります。
私の体に品口博士の人格と記憶を移植するのです。

肉体の病を治すことは不可能でも、これならば『品口大』はこの世に残ることができます。
移植される側である私の人格は消え去るでしょうが、私は人ではありません。
品口博士のクローンとして作られた私ならば移植の成功率、移植後の問題発生率などもクリアできるでしょう。

私というVessel(器)を使い、彼を救うのです。

私は、博士の下へ向かいました。


「1号……私は、自分の息子の命を使ってまで生き残る気はない」

私の計画を説明された博士は、横たわりながらかすれた声で、しかしはっきりとそう答えました。

……息子? 息子とは私のことでしょうか。

確かに私は博士によって生み出された存在、その関係性は親子とも呼べるものでしょう。
しかしそれと計画を拒否することに、何の繋がりがあるのかがわかりません。

「お前は、気付いているかね? ことあるごとに……自分が面白いと呟くことを。とくに、忍者に関わるとそれは顕著だった……」

そのような自覚はありませんでしたが……どうやら私にはそのような口癖があるようです。

「それは……私にはない個性だ。1号、私は、お前を作るまで、あくまでクローンは自分と同じ存在、自分の延長であり、自分自身であると考えていた……」

ええ、そのはずです。それは博士のクローンとして生まれた私の考え方と同じものです。

「だが。私にない個性をお前に見つけてからは……私は、お前を一人の人間としか思えなくなったよ、1ご……」

そう言いかけた博士はふと私の方を見て、一度口を止めます。

「いや……今はヴェッセルと名乗っているのだったか」

ああ、そういえば部屋に入ってから幾度かその名前を呼ばれていました。
研究所外で立場を偽るため、便宜的に名乗った名前です。

「ヴェッセル……器……なるほど、1号などと呼んでいては自分を人間と思えるはずもない……か」

博士は、考えるように目を閉じ、しばらくすると口だけを開いて喋りはじめました。

「私から贈れる最後のものだ……お前が自分自身を1人の人間と気付けるような、名前を……」

「私のかわいい、たった1人の息子……『品口一人』……」

それが、品口博士の最後の言葉でした。


生命活動が停止した人間はもはや生き返ることはありません。
各種機器で確かな死亡を確認した私は、その後博士の体を誰にも利用されぬよう、研究所ごと火を放ちました。

人を犠牲にするパナケイアの製法も、共に炎が消し去ってくれることでしょう。

オリジナルである品口博士がいなくなった今、クローンである私の生きる理由はもはやありません。
ですが……博士がすでに1号という呼び名がある私に、何を考え新たな名を授けたのか、わかりたいとも思います。

燃えゆく研究所を見送る傍ら、私の頭にはあの戦いで共に戦った彼女から向けられた言葉が思い出されています。

『オリジナルだろうとクローンだろうと、オマエはオマエ、1人だけ、だろ?』

品口博士の言ったことと一致するこの言葉……。

私は、結局最後の瞬間まで品口博士の考えを理解することができませんでした。
ですが、品口博士と繋がる言葉を語った彼女であれば、それを理解できるかもしれません。

そしてそういった人間を研究すれば、また自らも――。

「……面白くなってきましたね」
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